【映画/感想レビュー】シャイロックの子供たち:原作者池井戸潤さん×主演阿部サダヲさんのタッグに間違いなし!原作とは違った味わいのある作品

 こんにちは、ハナコです。

 皆さんは、シェークスピアによる『ヴェニスの商人』をご覧になったことはありますか?

 シェークスピアは言わずと知れたイギリスの劇作家で、四大悲劇『ハムレット』『マクベス』『オセロ』『リア王』や、『ロミオとジュリエット』など数多くの傑作を世に残しています。

 シェークスピアの作品の一つである『ヴェニスの商人』は、正義感が強く情に熱い貿易商人アントーニオ(ヴェニスの商人)が、友人のために悪名高い高利貸のシャイロックから借金をします。借金をする際に、アントーニオは期限内に借金を返済することが出来なければ、1ポンドの自身の肉を差し出すという“死の契約”を行います。シャイロックが1ポンドのアントーニオの肉を担保にしたのは、以前ユダヤ人であるシャイロックを見下し差別をしたアントーニオに恨みを抱いていたからです。アントーニオは、期日までに返済することが出来なかったため裁判が行われますが、名(迷?)裁判によってアントーニオはシャイロックに借金を返済することも、1ポンドの肉を差し出すこともなくハッピーエンドで終わります。

 本日紹介する『シャイロックの子供たち』は、『ヴェニスの商人』のシャイロックと同じ金貸し業を営む東京第一銀行の小さな支店を舞台にしたクライム・エンターテインメント映画です。

基本情報

タイトル:シャイロックの子供たち

監督:本木克英

脚本:ツバキミチオ(池井戸潤の別名義)

原作:池井戸潤

出演者:阿部サダヲ 上戸彩 玉森裕太 柳葉敏郎 杉本哲太 佐藤隆太 柄本明 橋爪功

佐々木蔵之介

上映時間:122分

制作会社:松竹

公開:2023年2月17日

サブスク:Prime Video  Hulu他 評価:Filmarks3.6/5  映画.com3.6/5 Movie Walker4.0/5

あらすじ ※公式ホームページより

 東京第一銀行の小さな支店で起きた、現金紛失事件。お客様係の西木(阿部サダヲ)は、同じ支店の愛理(上戸彩)と田端(玉森裕太)とともに、事件の真相を探る。一見平和に見える支店だが、そこには曲者そろいの銀行員が勢ぞろい。出世コースから外れた支店長・九条(柳葉敏郎)、超パワハラ上司の副支店長・古川(杉本哲太)、エースだが過去の客にたかられている滝野(佐藤隆太)、調査に訪れる嫌われ者の本部検査部・黒田(佐々木蔵之介)。そして一つの深層にたどり着く西木。それはメガバンクにはびこる、とてつもない不祥事の始まりに過ぎなかった―。

相関図 ※公式ホームページより

視聴しようと思ったきっかけ

 池井戸潤さんの作品も、阿部サダヲさん主演の作品も大好きですが、その2人がタッグを組んだ映画とあらば、面白いに違いない!と確信したからです。

オススメしたい人

 本作は原作者である池井戸潤さん脚本による完全オリジナルストーリーです。原作が好きな方も、WOWOWのドラマを観た方も、それらとは違った映画版『シャイロックの子供たち』の面白さを味わえると思います。

おすすめポイント①淡々と描かれているからこそ浮き立つ人間性

 池井戸潤さんの作品と言えば、「倍返しだ!」が名台詞の半沢直樹シリーズがあります。知略を巡らせた大どんでん返し、巨悪を断つ勧善懲悪など、ハラハラドキドキ…目が離せない展開が多いです。『花咲舞が黙っていない』シリーズも、不正を見逃さず、弱い立場の人たちのために立ちあがる女子行員の痛快さが癖になります。一方で、映画版『シャイロックの子供たち』は、メガバンクの小さな支店で起こる現金紛失事件を起点に物語が展開していますが、巨悪を断つことも、権力や権威に立ち向かうスカッとした場面もそこまで派手に描かれていません。池井戸潤さんの作品と言えば!…という方々にとって、どこか物足りなさを感じる人もいるかもしれません。

 しかし、淡々と登場人物たちの関係性やストーリーが描かれることで、よりリアルな人間くささが現れてくるのではないかと思います。池井戸潤さんはFASHION PRESSのインタビューで、「作者が作為的にキャラクターを動かさないこと。自然で、リアルな人物を描くことを意識しました。」と発言していました。

 映画版『シャイロックの子供たち』は、絶対悪でも絶対善でも、白でも黒でもない、グラデーション豊かなグレーな人間性が描かれているように感じました。

おすすめポイント②「金は返せばそれでいいというものでもない。」金と引き換えた魂の行方は…。

 映画版『シャイロックの子供たち』の冒頭、黒田は妻と『ヴェニスの商人』を観劇し、「金は返せばそれでいいというものでもない」と独白します。銀行員の黒田は、かつて週末のビックレースのために金を持ち出し、競馬に使ってしまったことがありました。競馬の予想を的中させたことで、月曜日の営業日までに返済でき、発覚もしませんでした。しかし、これによって黒田は「あのとき俺は悪魔に魂を売り渡した。普通の銀行員から、あの忌み嫌われた金貸しシャイロックになったんだ。」と回想します。

 銀行では、数万円から数十億円まで大小さまざまな金銭が扱われます。本編に出てくる登場人物たちは皆、銀行員である前に一人の人間で、家庭や生活があります。人間は強くも弱くもあるため、ちょっとした瞬間に魔が差し、悪事に手を染めてしまうこともあるでしょう。“シャイロックの子供たち”になったのはいったい誰か?金を得るために売り渡した魂は、果して取り戻せるのか…。魂を取り戻した先に、あるいは売り渡した先に待つ未来とは…。

総評

ストーリー     :4点 /5点
キャラクター    :5点 /5点
映像        :3点 /5点
音楽        :3点 /5点
心の揺さぶられ度合い:3点 /5点
メッセージ性    :4点 /5点

合計:22点 /30点

※各項目5点、合計30点満点

映画版『シャイロックの子供たち』は、原作と違った人間性をリアルに描いた味わいのある作品ですので、ぜひ一度ご覧ください。